真っ赤なトライアンフを追い詰めろ!
オートバイはいつだって宝物。
少なくともオーナーにとってはそうだ!
この真っ赤なトライアンフは宝物。
それをワタイに預けられたわけよ。
で、こんなことやってるわけよ。
神戸の灘駅近くのジャーニーさんとこの吉川さんが組直してさ。
ワタイがテストライダーでさ。
美香さんとこは、カワサキディーラーなんで今回のは完全プライベートの非公認企画。
だからいうか、だからこそというか。
破綻するとこまで追い込んで
セッティング出すわけよ!
普通は、こんなことしちゃいけない。
だって、危ないからね。
でもさ、危ないとこまで行かないと
見えないことも結構あるのよ。
ガレージの中で、真っ赤なトライアンフがささやくのよ。
まだまだ本領発揮できてないわ、って!
老け込むにゃ早すぎる。
ぼやぼやしてると、ガソリンなくなっちまうぜ!
ということで、ワタイは新神戸トンネルを北に抜けたわけよ。
その前に、ジャーニーによって相談したのよ。
吉川さんは「じゃあ、バネ少し締めましょうか」って。
と言っても、2ミリくらいなんだけどね。
オーリンズとかの高性能サスは、ソレで激変しちゃうのよね。
逆に言うと、セッティング出せなきゃすぐ崩れる。
交換でよくなるとか、そんな世界やないと思うのよ。
ここ注意ね!
国道428を北上し、最初の峠。
岩谷峠の下りでかっ飛んでゆく。
地元でコークスクリューと呼ばれた道も
随分整備されちゃってさ。
この動画とか、なんというか切ないダサさよね。
まあ、いいんだけどね。
ここではただコーナーが楽しい。
リヤの追随性も悪くない。
ただ、もう少し落ち着かせたい。
通常いじりやすいのは「圧側」。
でもコレは違う気がする。
「伸側」を2ノッチ締める。
二速全開で立ち上がるときに、くずれなくなった。
後輪が多少硬い気がするけれど、ハイエンド域でいい滑り方をしている。
破綻せずに、パワーで少し滑っている。
車体が軽くなり、ハンドルの切れ込みが自然だ。
リアにしっかり荷重をかければ、まるで250のように回ってゆく。
実際に車重はそれくらいで、馬力が倍あるわけだ。
たまんねーな!
そこからいくつかのゴルフ場の前を抜け
フルパワーで4速まで使うが問題はない。
ただ、荷重が抜けた時の突き上げが少し硬い。
コンビニでコーヒーを飲みながら考える。
圧側も、オーリンズ推奨値に合わせてある。
このマシンが作られた10年前のイギリスを考えてみる。
2010年、ロンドンでは「This is it」がオープニングしようとしていた。
そう、あのマイケル・ジャクソンだ。
北海油田がザクザクでるスコットランドの独立機運が高まった頃。
EUに残るか出るか揉めだした頃。
つまり、イギリスは盛り上がっていたのだ。
こういう状況下で、ラリってウッヒョーと作られたに違いない。
とすれば、設定速度は高いはずだ。
イギリス人というのは狡猾さを持つ一方で、
不思議なほどイリーガルを望む。
もともとが戦うことが好きなのだ。
そりゃそうだ、今の王室はヴァイキングの末裔だ。
あいつら、なぜあんなにまずいもの食って平気なんだろう。
きっと頭がイカれておるのだ。
しかし、ここは日本だ。
礼節を重んじる国なのだ。
つまり、そこまでアベレージを上げるのはよろしくない。
さっきまで?
なんのことです?
もう少し低い速度域でしなやかにしたい。
一般的には好まれないが、私は圧側を少し抜いたほうが好きだ。
よって、1ノッチ緩めてみる。
高剛性できついものより、すこしラグのある揺れが好きだ。
その揺れに否定的な感情はない。
それを「しなり」にできるかどうかはライダー次第だ。
いま来た道を引き返す。
合法速度での動きはソフトになった。
少し負荷をかけても問題ない。
私は三速で引っ張りながら、荒れた路面に突っ込んで見る。
ステップに体重をかけ、少し尻を浮かせたスタイル。
ジョッキースタイルで駆け抜けると、足の下からサスの動きが伝わる。
そのままコーナーに飛び込むと、少しだけリヤが砕けた。
なるほど、飛ばす時は1ノッチ締め。
通常は1ノッチ緩めだな。
それくらいのことを、平気で要求してくるトライアンフ。
いいぜ。
俺、そう言うの嫌いじゃないぜ!
もう一度岩谷峠を駆け上がる。
まるで、2ストロークのオフローダーに乗っているようだ。
サスはしなやかに動き、ハイパワーを一気に引き受けている。
上りだったこともあり、より動きが優しい。
上りはある意味では乗りやすい。
下りはライダーの介入度合いは高くなる。
つまり腕次第なのである。
下りがダメな奴は、下手くそなのだよ!
そのまま新神戸トンネルに入り、5速までフル加速してみた。
この設定で、振られることもない。
ジャーニーに戻り、吉川氏に報告する。
「多分、もうこれで決まりだと思います」
吉川氏もハーバーハイウェイを走りに行き
「ああ、コレで決まりですね」
と言い、深くうなずく。
私も深くうなずき
「吉川さん、いい仕事しましたね」
「いえ、最後にレバーを交換します」
「ああ、このレバーなんか気になりますね」
「ええ、ノーマル純正にもどどしたほうがいいと思います」
ついているレバーは、トライアンフの純正オプション。
しかし、操作性に多少問題がある。
このマシンは、小柄な女性ライダーが乗るのだ。
そういう小さなところの変更が重要なのだ。
忘れていたが、サイドスタンドを出しやすいように
小さな工夫をDIYでしておいた。
こういうのであるな。
小柄な女性ライダーが困ることに、サイドスタンドの出し入れがある。
— 8マン (@chuff_de_gogo) 2021年4月2日
やっつけながら、なかなかの出来じゃなかろうか? pic.twitter.com/BEtyFPwzGe
すぐに壊れると思うので、改良は必要だろうけれどね。
一旦ガレージに戻す。
このラリって作られたであろうマシン。
デザイナーとエンジニアの仕事に敬意を持ってしまう。
すべての機械は、人間が作ったものだ。
その人間の考えや思い。
そして経済的理由、社会情勢、時代。
それらを詰め込んで機械は形になってゆく。
内燃機関ができて100年ちょっと。
その百年の歴史が終わろうとしている。
私より数世代後の人間には、内燃機関は馬車に等しくなるだろう。
そして、デザインと言う魔物。
気化したガソリンを爆発させ
それを封じ込めることで回転運動を可能にした技術。
その爆発は、排気管から空中に放たれる。
あの咆哮は、爆発の最後の姿だ。
いずれそれは消える。
私個人はそれでもいいと思っている。
人間が爆発よりスマートな世界を望むなら
それもまた仕方ないことだろう。
それでもなお私は思う。
トラインアフ・ストリートトリプルR。
これに乗ることができた人間は幸福である。
(コレが原罪ってやつ?悔い改める系?御冗談を、仏教徒でクリック!)
次回はマニアックな整備録ですよー!