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ある田舎の葬式

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アンリ・カルティエ・ブレッソン

日本で撮影したお葬式のショット。

 

誰が亡くなったのかは謎だけど、

この一枚のショットは生前の故人を

偲ばせるのに十分な力があります。

 

ある種の美と呼んでもいい

この日本の喪に対する儀式。

私は、祖母の弟のお葬式を思い出しました。

それは実に美しいものでありました。

 

 

 

アンリ・カルティエ=ブレッソン:20世紀最大の写真家 (「知の再発見」双書)

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その人はかなりお年寄りで

老衰でなくなったのだから

大往生と言える人でした。

 

私が小さなころから可愛がってくれて

田舎の人には珍しく陽気で

ある種の知性をもともと持っている人でした。

 

古い農家の家に生まれ

その家で生涯を閉じ

その家で葬式をしたのです。

 

私も参列し、棺を担いだのです。

その地方は棺が家を出たときに

その魂が戻ってこないように、

つまり成仏できるように、

つまり現生と縁を断ち切るために

棺をぐるぐると回す習慣がありました。

 

男たちが掛け声を合わせて

棺を空に高く放り投げ

その声を聴きながら、女たちは涙しました。

何度か放り投げてはぐるぐる回す間、

坊主は紙吹雪をまき散らすのです。

 

季節は梅雨が明けて空が晴れた時期でした。

田には稲が青々と茂り、

強い光に当てられた極彩色の紙吹雪が

人間の最後を飾るにふさわしい美しさで。

 

男たちは、その間に泣いてはならない掟があり

掛け声はあくまで勇ましく。

坊主の小僧がドラを鳴らし、

山々にその音が響いて。

 

空は高く、遠くで馬が啼いて。

 

紙吹雪が撒かれ切ったあと、

男たちも堰を切ったように泣き。

人の人生というものの終わりとして

祖母の弟は実に幸せだったのでしょう。

 

読経が響く中

故人の茶碗が割られ。

棺の中には亡骸が、花に埋もれ。

モノになったそれは、断ち切られた故郷に

静かに別れを告げて。

 

世界の終わりというのは

かくも美しく。

戦争にも行き、人も殺したはずのその人も

仏となりて土にかえる。

 

その時、往生なるものの意味に

少しだけ触れた気がしました。

戦争さえも愉快な話として語ってくれたその人は、

全てを笑い飛ばす人でもありました。

誰もが送れる人生ではないのでしょうが、

人は笑うべきです。

 

(少なくとも、そうありたいと思う今日)