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思い出のマシンたち CB750F

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時々お送りする、ワタイの思い出のマシンたち。

いろいろあったでござるなあ。。

こんなのとか。

chuff.hatenablog.com

 

こんなのとか。

chuff.hatenablog.com

 

こんなのとか。

今回は、ワタイが生まれて初めて運転した

ナナハン、CB750Fのお話ザンス。

 

 


「よかったら乗ってみなよ」
 
ある夏の盛り、

峠道の駐車場でのことだった。

その日知り合った、

20代後半くらいの男はナナハンに乗っていた。

 

ごく軽く、まるで昔からの知り合いに言うよう。

俺はまだ17歳で、マシンは古い400ccだった。

そしてそのクラスのオートバイしか乗った事がなかったのだ。

それは、彼もわかっていたはずだ。

友人の兄貴達でも、でかいマシンを転がしているのはいた。

しかし、それは殆ど触らせてもらえなくて当然だった。

どのマシンもピカピカにワックスされていた時代。

排気量が、そのプライドを示せた時代。

 

そんな時代。

俺は、好奇心と畏怖感と多少の遠慮で


「でも免許ないですよ」

 

と正直に言った。

当時は中型免許で、限定解除は司法試験より難しいと

言われていたような暗黒時代。 

 

男は大笑いして


「でも乗りたいだろ?」

 

と言って、いたずらぽく笑った。

 

“自信ないのかい?”

と言われているようで、若い俺は単純に腹がたった。

目の前にはメタリックレッドのCB750F。

 


煙草をブーツで揉み消して、

俺は股がってエンジンをかけた。

初めてのナナハン。

思った以上に緊張したが、基本的には同じものだ。

 

一呼吸して、クラッチを繋ぐと

そのバイクはあっさりと動き始めた。

俺が経験したことのないスムーズさで。

 

加速、減速。

重心を動かし、バンクさせる。

すべてがなめらかだった。


空冷マルチの太い排気音。

400とは桁違いのトルク。

美しいデザインのタンクは、ワックスアップされている。


峠の向こうで折り返し、

調子に乗ったコーナーの立ち上がり。

ステップを地面に擦り付けていると、

一瞬リヤを持っていかれそうになった。

俺は心臓がバクバクしていたけれど、

強烈な興奮に逆に嬉しくなった。

ナナハンはこうでなきゃいけない。

 

 

駐車場に戻ると、自分のマシンが小さく見えた。

拍手しながら出迎えてくれた男は、

奇妙に楽しそうだった。

 

「どうだったよ?」

 

俺はタバコに火をつけながら、少し気取ってこう言った。

 

「案外乗りやすかったです」

「だろ?」

「そんなことより、気持ちよくて」

「だよなあ。でもなあ、俺の友達は、もう誰も乗ってないんだ」

「なんでですか?」

「もう、気持ちよくねえんじゃなえか。俺もな、明日このF売るんだよ。それでラストランってわけよ」

「こんな気持ちいいバイクを売るんですか?」

「まあな、いろいろあるんだよ」

「今はもう気持ちよくないんですか?」

 

男はヘルメットを被ってこう言った。

 

「気持ちいいよ、当たり前だろ。乗ってくれてありがとうな。お前はもっともっと乗れよな。上手くなると思うよ」

 

男はゆっくりと駐車場から出てゆき、

そしてエンジンを煽って俺に手を振った。

そして高々とフロントを上げてスタートして、峠道の向こうに消えた行った。

 

その時の俺は、彼の心境を考えなかった。

ただ初めて乗ったナナハンの感触を

思いだしていただけ。

全身に血流が力強く響き渡り、目が充血しそうだ。

まるでなにかの鼓動に包まれているような感覚。

 

あの時、どうして彼は俺に「乗ってみなよ」と言ったのだろう。

ピカピカに磨き上げられた、明日手放すマシンに。

もしかすると、俺に事故らせて買い取らせる気だったのかもしれない。

いや、そんな顔つきじゃなかったな。

 

 

翻って自分を考えてみる。

あれほどいた仲間も、その殆どがオートバイに乗ってはいない。

みんな「いろいろあるんだ」ってわけだ。

16歳からこっち、俺は一度もバイクを降りた事はない。

しかし俺にも人並みに「いろいろ」あるにはあった。

でも、彼と同じく、今でも俺はオートバイに乗る度に気持ちがいい。

 

できれば、もう一度彼と話してみたい。

その時、彼がもう一度オートバイに乗っていてくれたら嬉しい。

そして 「やっぱ、楽しいな。気持ちいいな」言ってほしい。

そしたら俺は

 

「あの時はありがとうございました」

 

と素直に言えるはずだ。

既に彼の顔は記憶に無い。

ただ、あの赤いタンク。

それだけしか覚えていない。

もう、それくらい時間がたったけれど、

それは関係ない。

 

きれいに磨かれたマシンに乗って、

「気持ちいいな」って言う男は、

俺にとって、みんな彼だ。

赤いCBに乗って、ウィリーを決めたあの男だ。

そう思いながら、俺はいつだって、

バイクに乗る時はマシンを光らせる。

 

オートバイは、そうあるべきだ。

 

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