夏が近づいてくると、
Nくんの周囲は邪悪な空気となる。
その理由は、このマンゴーなのです。
私が初めてこのマンゴーを食べたのは、
もう十年くらい前でしょうか。
その時の興奮は、
前頭葉が勃起するような、
もうヤバイクスリやってるような、
一種のトリップ体験でした。
今回、毎年繰り広げられる争奪戦を
生々しくご報告いたします。
一般の人が知っているマンゴーって
最高品種は、国内なら宮崎産じゃないでしょうか。
まあ、結構いいお値段ですよね。
他ではメキシコ産やタイ産。
一般的には、マンゴープリン。
どれも美味しいですよ。
でもね、友人とかにあげたり、
家族に残してあげたり、
まあ、余裕あるじゃないですか。
でもね、Nくんの持ってくるマンゴーは
それを食した人間すべてを獣に変えてしまうんです。
「8さん、マンゴー来たんですけど」
「いま、どこ?これから取りに行く!」
「いやいや、お持ちしますよ」
「何をおっしゃいますやら。伺いますって!」
「えーっと、ちょっと今日は遅くなるんですけど」
「そんなあ、君と僕の間じゃないですかあ」
「うーん」
「何時にどこ行けばいいの?」
もうね、いやらしいでしょ。
普段は呼びつけることはあっても、
いそいそ出かけるってことないんです。
でもね、あのマンゴーのためなら、
いくらでも腰を低くできますよ!
その昔、彼と信州の知り合い宅に
お邪魔したときのこと。
みんなマンゴーの衝撃に打ちのめされていました。
その後、私が台所に入ると、
そこの奥さんと娘さんが、
皮と種をしゃぶり尽くしていたんです。
もうね、地獄絵なの。
で、食べた人がSNSに上げるとね、
それ見た人がまた欲しがるわけです。
しかし、この貴重なマンゴーには限りがあります。
よって、Nくんの采配ひとつなんですね。
ですので、夏が近づくと
彼の周りに不穏な空気が流れます。
「いいんですか、そんなこと言って?今年マンゴーは不作だそうですよ」
とか言われたら、みんな雨に打たれた子犬になります。
大阪から車で深夜に取りに来る人、
まだかまだか、と電話攻撃の人。
みんな、見事に畜生化しています。
そして、その中のお一人が、
例の神様ご一族。
もう、ご家族揃って修羅の道へ。
大明神なんかね、一年で何度もタイへ行くわけです。
向こうで、いっぱい食べてるんですが、
Nくんところのマンゴーは世界一認定です。
で、神様の娘さんが台所で種をしゃぶっていたら、
お孫さんが
「お母さん、ずるい!」
と叫んだらしいんです。
「あんたには実を多めにあげたやないの!」
「ズルいズルい!」
「あの種なあ、場所でまた味が違うんよねえ」
「ズルいズルい!あれは、直接脳みそに来るんやもん!」
もう、マジ修羅場。
Nくんのお母さんの里が与那国島。
そこのおじさんが、アメリカに留学して
学んだマンゴー栽培。
自然落下するまで熟させた実は、
完璧な弾力と、脳を直撃する甘み。
私もねえ、世界中で食べてますよ。
でもねえ、これを超えているマンゴーに
出会ったことがありません。
それにね、このマンゴーがあるとき、
誰かにいてほしくないの。
だって、減っちゃうじゃないですか!
ここまで、人間を卑しくするマンゴー。
今年も台所で立ったまま食べました。
それは一種の卑しい悟りの境地。
もうね、動画で撮ってたら後悔しそう。
でも毎年そうしちゃう!
あなたもお一ついかがですか?
なんて絶対言いませんよ!
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