ついに LOVELY と呼ばれてしまった焚き火の男。
世界で最も危険なレースが始まります。
一周60キロの公道を、6周。
平均時速210km/hで走るクラスです。
道幅は基本二車線の、荒れた路面。
もちろん、クネクネから、最高速のストレート直線もあり。
もう一度書いておきますけど、
これくらいの距離ですよ。
これを下道で二時間弱です!
うおおおお!!!
ではさっそく。
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昼食を食べ終え一服していると、
ラジオの音声が急に慌ただしくなった。
シニアクラスが始まったのだ。
マン島TT最後のレース。
改造無制限のリッターバイクに乗った、
ブチキレライダー本気の暴走劇の始まりだ。
スタートから10分もしないうちに、
ヘリの音とともに最初のマシンが見えてきた。
その姿は、凄まじい排気音と共に、
見る見るうちに迫ってくる。
速さは先のゼロクラスやサイドカーに比べ、
あきらかに別次元のものだ。
耳をつんざくような音と、
今までで一番大きい衝撃波を残して、
レーサーは目の前を、一瞬で走り去っていく。
次から次へと、命知らずが突っ込んでくる。
コーナー手前ギリギリまでブレーキをかけない。
ブレーキは一瞬。
タイヤから白煙が上る。
インからアウトまで、
フルラインを使って、コーナーを抜けてゆく。
コースアウトまで、掛け値なしで数センチしかない。
見ていて息が詰まりそうになる。
まるで日本刀の、真剣同士の立ち合いのようだ。
シニアの決勝はコースを6周。
つまり彼らは2時間近く、
あんなヒリついた感じで走り続けるって事だ。
もはやオレには理解不能な領域である。
レースは2周目に突入した。
目の前を10台ほどが通り過ぎた時、
レッドフラッグが振られた。
この旗が振られたと、レースは中断される。
どこかで誰かが、大事故を起こしたという意味だ。
少しして優勝候補のイアン・ハッチンソン選手が、
マウンテンコースでクラッシュしたという情報が入ってきた。
安否のほどはわからない。
ハッチンソン選手は、
マン島TTでトップクラスのライダーだ。
初日のスーパーバイククラスで優勝している。
そんな熟練のライダーであっても、
こういう事は起きる。
トップクラスゆえ、
クラッシュした時のダメージは大きい。
最もスピードを出せるレーサーの事故なのだから。
マン島TTの映画のエンディングを思い出す。
主役クラスのライダーは、皆最後は病院にいた。
ICUから出てきて軽口を叩いているが、
実際は重傷だ。
みな、身体をボロボロにしていた。
そんな状態で、ほんの少しの反省と、
次回の抱負と野望を語る、懲りないやつら。
無傷のまま、マン島で栄光を手に入れるのは、
不可能なのだ!
レースは30分ほど中断されていた。
その後、周回を4周(つまりあと2周)に短縮され再開された。
こういう事態で、レーサーが考えることは、
一般人の想像の外にある。
今回のアクシデントに臆しているわけがない。
それどころか優勝候補の脱落で、
勝てるチャンスが膨れ上がったのだ。
その興奮と期待に、皆色めきだっている。
これがレーサーなのだ。
ババを誰かが引くとしても、
それは決して自分ではない、と信じ込んでいる奴らだ。
観客の盛り上がりも最高潮に達していた。
再びマシンがやって来て、
目の前を次々に走り過ぎていく。
その走りは、さっきまでと変わらない。
いや、激しさがアップしている。
二周で終わるということは、
ガソリンやタイヤのことを考えなくてもいい。
なのでペース配分などという、
お上品なものはない。
全員むき出しの本能で、
本気の全開だ!
オレは、美しいと思った。
ここに来る前に、8マンはオレに、
「とにかくBeautiful と言えばいいんだ」と言った。
景色も、女性も、食べ物も、全部 Beautiful 。
その時のオレは、話半分で聞いていたのだが、
まさしくそうなのだ!
この時間、この空気、レーサー、観客、
そしてこの島。
全てが Beautiful だ!
レースは本命のマイケル・ダンロップ選手の優勝で幕を閉じた。
これで、すべてのレースが終わったのだ。
オレのマン島の旅も、終わりに近い。
メイン会場の様子が、ラジオの歓声から伝わってくる。
祝祭としての、熱狂が渦巻いている。
祭りは終わろうとしているのだ。
これからメイン会場へ行き、
それに加わる人たちも多いのだろう。
オレ達の意見も二つに分かれていた。
このあとダグラスのメイン会場へ行くか、
それともレーサーが走った直後の、
栄光と歴史のマウンテンコースを走るか。
うまい具合に人数的に半々に割れた。
オレは迷うことなくマウンテンコースだ。
全コースの中で、もっともコーナーが多く、
テクニカルなこの区間をぜひ見ておきたい。
スタッフは先にダグラス組をメイン会場へ送り、
その後、オレと残りのメンバーは、
車に乗り込みマウンテンコースへ向かった。
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いい!
実にいい!
いやあ、素晴らしいですね。
こういうのは、実際に行かないと経験できませんね。
タイヤの焦げる匂い、大音量の排気音、
ガソリンの燃える匂いと、死の予感。
勝者はそれを、気軽に扱うわけです。
なんとも美しい。
危ないだとか、安全だとか、
好きだとか、嫌いだとか、
小さなことですよ。
美しいものの前では、チンケなもんです!
スバルが四輪でタイムアタックしている動画を発見しました。
ご参考までに。
2分辺りまでアップして、そこから全開ですね。
こちらのサイトで拝見しました。
(伝わってきますね!ヒリヒリした人生もいいんじゃないかな!そこでクリック!)
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