桂林と言う街は有名ですよね。
桂とは、中国語で金木犀のことです。
その名のとおり、街中にその木があります。
秋の初めに訪れると、街全体があの香りで埋め尽くされています。
かなり特殊な形で、しばらくあの街で暮らしたことがあります。
まだ、オスマンサスホテルがあるかどうかは知りません。
そのホテルに、少しばかり思い出があるのです。
あれは、天安門事件からまだ数年しか経っていませんでした。
当時の中国がどういう状況だったのか、
私の知る限りで、ざっとお伝えしようと思います。
当時、外国人が入っていい街を「開放都市」といい、
全体で3割程度だったと思います。
「非開放都市」には軍事上の理由もあったようですが、
そのほとんどは、あまりに貧しいので外国人に見せたくないという、
非常に中国的な理由が大きかったようです。
私は、ちょっと特殊な立場で滞在していまして、
何度かそういう地域に入りました。
日本とドンパチやっていた頃の映像とかあるでしょ?
こういうのに出てくる感じのね。
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あの、まんまでしたね。
裸足のお百姓さんが、わずかな野菜を路上で売っていたり、
それを公安(警察ですね)が、棍棒でしばいたりと。
まさか、その後の展開でこうなるとは!と言う感じでしたね。
今の人民元とはちがう、外貨兌換券、通称ワイホイと呼ばれる貨幣があり、
外国人はこれに外貨を交換しなければなりませんでした。
身分証のいる乗り物、飛行機や列車では、中国人の倍くらい払わされてたんです。
また、ワイホイでしか買い物できないデパートが各地にあり、
だいたい友誼会館とかよばれていました。
そこは、外国人専用みたいなものなのに、なぜかしら中国人しかいません。
闇でワイホイを手に入れて、入手しづらいものを買うのが、当時の中国人のステータスでした。
ホテルも外国人には規制があり、安宿には泊まれないわけです。
最近、自転車で中国を旅している人のスレを見た時、とても衝撃を受けました。
外国語を覚えるのは得意だった私は、
一ヶ月ほどで日常会話も問題なくなっていました。
各地を見たいと思ったので、ふらっと桂林に寄ったんです。
空港で、ホテルの客引きと知り合いました。
彼は中国語と英語しかできなかったので、
「よし、他の国のはオレが引き受ける。二人引っ張たらオレの宿代はタダにしろ。三人引っ張たら飯もただにしろ」
とか言ったら、すんなりそうなったんです。
そうなると、空港にホテルから毎日出勤するという、
不思議な形で街に滞在する旅になりました。
そうこうしているうちに、土産物売り場の女の子と仲良くなり、デートしたりして。
ある日、当時桂林では高級だった「オスマンサスホテル」でお茶してたんですね。
中国名はなんだったでしょう。桂花飯店とかだったように思います。
テーブルには、珍しく生花が挿され、コーヒーも美味しく、クロスは真っ白です。
その時嵐がやってきて、雷が激しく光っていました。
その光の向こうに、いわゆる山水の世界が数秒浮かび上がります。
壮大なショーのような、幻想的な時間です。
オスマンサスホテルは、川べりに建っていました。
ふと、その川べりをみると、乞食や癩病者がスラムを作っていました。
ホテルの窓から、白人がフルーツを投げたりしていました。
それが見えるんですよ、雷が光ったときに。
投げられたものを、川べりの住人が奪い合うのを見て、
彼らは大喜びしていたのです。
それをもらうために、彼らはそこにスラムを作って生きていたわけです。
それが、ピカっと光る中で見えるんです。
漓江の川下りは観光船で有名ですが、ここでもそれを見ましたね。
フルーツやお菓子を川に投げると、漁民が船まで泳いできて掴み取るわけです。
つかんだ人は、満面の笑顔です。
投げた人(主に白人、時に中国人)は歓声を上げて喜んで写真を撮っていました。
そして時々、子供や漁民は、スクリュウーに巻き込まれて死んでいたようです。
私は、あの時、世界の構図を少し知ったのかもしれません。
差別だとか、そういうチンケな感想ではなく、
構図という、事象です。
一緒にいた売店の女の子は、英語が得意でした。
私は、そんな彼女をMiss Sweet と呼んでいました。
とてもきれいで頭の良い女の子でした。
彼女は眼下の風景を気にしてはいませんでした。
雷に照らされた山水の風景、美しい横顔の Miss Sweet。
歓声を上げながら笑う白人と、我先にと手を上に差し出す乞食たち。
その中の顔の崩れた病者たち。
数秒おきに、それが続きます。
私は、コーヒーにミルクと砂糖を足しました。
翌日、私はその街を出ました。
なんとなく、その街をあとにしたのです。
もう、随分昔の話です。
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