極稀に、多くても数年に一度。
それ自体を、完璧な日とできる時がある。
そんなライディングをできることがあるのだな。
これまでにも数回は経験がある。
多分季節は秋。
ちょっと、危ないほどの多幸感と
一切イヤなものを目撃せずに
時間がただ流れる偶然。
バイクの調子と、自分の体調と。
甘い蜜が気体になって
鼻から脳内に流れ込み
小脳あたりでとぐろを巻いているような。
感覚はトロリとならず、
爪の先まで血が行き渡って。
ああ、これはハイってやつだ。
そんな日のこと。
最初は、夕日をカメラで撮影するつもりだったのね。
ある交差点で、対向車が強引に右折してきて
緊急回避的に避ける形で左折したら、
高速道路の乗り口で。
なんとなく高速を走ったら気持ちよくて。
ああ、空が高いなあ。
とか思ってたのね。
２０年使ったリヤサスを交換したし、
それのテストも兼ねて、高速を吹っ飛んでいたのね。
その時点では、「その時」が来ているとはまだ思ってなくて。
適当なところで高速を降りたら、そこは南丹市だったのね。
このあたり。
京都府の山の中と言っていいと思うんだけど。
太陽は角度をつけていたけれど
十分に明るくて、雲もほとんどなくて。
料金所を出たあたりで、トイレを済ませたら
とても世界が美しくて。
適当に広い道路を走ったら
山の中の盆地に出たのね。
西に開けている場所を探して
時間待ちしようかと思いながら走っていたのよ。
そしたら素敵な川沿いを見つけたてね。
国道らしき道を外れて降りていったのね。
川のあぜ道がとても美しくてさ。
収穫が済んだ農家の人が、野焼きをやっていたりして。
そこでカメラを取り出したら
SDカードが入ってないって気づいたのね。
ああ、夕日も何もあったもんじゃないじゃない？
仕方ないよねー、と思いながら
スマホでちょっと撮影と思ったわけ。
でもカメラ機能使うと
電池がどんどん減ってゆくじゃない。
５ｓだから、仕方ないのよ。
でもいいじゃない？
ここまでに、変な感じはあったのね。
アスファルトの筋まで直感的にわかるような
感覚過敏な感じと同時に
背中の筋肉が完全に緩んで
体がしなやかに動くのね。
指の動きはなめらかで
機械は全て正確に作動してるわけでさ。
斜めになった太陽の光が
暑いくらいに眩しくてさ。
なんだろうね、あれ。
走り出したら、その高揚感はますます増えて。
吉川町の古川って地域で、あぜ道に入ってみたのね。
普通はそういうことしないんだけど。
小さな、本当に小さな橋があって。
その向こうに、きっと古くからある集落があって。
車は通れないくらいの道沿いに、
ずっと桜の木が並んでいて。
このあたりで、iPnone のバッテリーも終わってしまって。
途中で買った、ミネラルウォーターを飲み干したらさ
それが、体中に染み渡るんだよね。
まるで水がテキーラみたいに。
こういうのは、本当にいくつかの
偶然が重なって初めて体験できるものだから、
ライダーズハイとか安易な言葉は好まないんだけれど。
時に、ほんとうにごく稀に。
世界が輝き続ける日があって、
それを完璧な日と呼んでいるんだけどね。
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