彼女は35歳で、
馴染みのバーの常連客だった。
何度も一緒にお酒を飲んで、
どうでもいい話しを、
長々としゃべったりした。
バー以外で会ったのは、
彼女の恋人のアメリカ人の青年と3人で、
明け方まで飲み歩いた一度だけ。
色白の小柄な体つきで、
英語が得意な女の子だった。
目がとても大きく、
鼻筋の通った奇麗な顔立ち。
あまり東洋人らしくない容姿だった。
最後に会ったのは十年ほど前。
そのバーのカウンターに座っていた。
確か彼女はカフェオレか何かを
飲んでいたと思う。
俺はいつものようにお酒を呑んで、
少し話しをした。
そして彼女は長居をせずに帰って行った。
その時、俺は彼女が
重い病を患っていることを知った。
数ヶ月たって、
その彼女が死んだ事を聞いた。
ただの飲み仲間の女の子が死んだ。
その夜、道を歩いていると、
「もう会えないんだな」と、
当然の事を突然思った。
そんなことを、昨晩思い出した。
友人と呼ぶには、あまりに
浅い関係のようにも思えたし、
知り合いと言い切る程には
知らない関係じゃない。
「いつか神戸に遊びに行きたいなあ。そのときは宜しく」
「おう、いつでもおいでよ」
そんな約束をしたことも思いだした。
本人の意向で葬式は出さず、
密葬で済ませたらしい。
自分の死を知っていたらしい。
そんなことも思い出す。
人間はたまたま生きているだけだというのに、
いつもそう思っているのに。
人が死ぬと、
どうしてこんな気分になるのだろう。
バーで一緒に飲むだけの女の子だったのに。
十年経って、まだこんな気分だ。
理由を考えてみた。
いかした女の子だった。
とてもいかした女の子だった。
彼女の得意な英語で言うと
She does it right !
Dr. Feelgoodというバンドに同名の曲がある。
テンポのいいドラムとギターが弾ける曲だ。
今朝 iPhoneで聞きながら、
冬の雨空を見上げた。
「この街にはね、美味しいものや、奇麗なものや、面白いものが沢山あるんだ。おまけにパンダまでいるんだよ」
そんなことを呟きながら、
またしばらく空を見上げた。
でも、もう、
She did it right なんだなって、今思った。
チクショウ!
チクショウ!
何かがオカシイじゃねえか!
気に入らねえな。
やっぱり、いいんだよな。
She does it right ! でさ!
(彼女はイカしてる。そう、それでいいじゃないか!そうだよな!)

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