CHUFF!! チャフで行こうよ。

もう、何でもありです。ヒマつぶしにどうぞ。

CHUFF!!ってのは、「おっ、なんかいいよね!」って意味です。チャフっていきましょうよ!

触れてはいけないものですよ!それ!

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今週のお題「雨の日の楽しみ方」

 

嵐が近くまで来ている。 

 

小さな頃、俺は山奥の寒村で育った。

山肌に立つ小さな家からは

白い岩が美しい河原が見えた。

すぐに増水するその川が好きだった。 

そいう土地では雨が降ると

川の水量はあっという間に何倍にもなる。 

山を伝う雨が谷のそこに集まり、

急激に水かさを増やす。

 

普段は安心して遊ぶことのできる、

その河原は土色の水に浸かり、

周囲を完全に飲み込んでしまう。

あらゆるものが流されて、

あらゆるものが流されてくる。 

その止めどない水。

それを小さな俺は大好きだった。

 

 

 

普段から電波状態のよくない

テレビやラジオは、雑音だらけになる。 

風の音と雨の音。

近くを流れる川の音。 

それが渦巻くと、

ただただうねる低い音だけになる。 

 

ゴーッ。 

 

世界の終わり。 

きっと、興奮するぜ。 

それを見られるなら、

クリスチャンになってもいいくらいだ。 

 

ヨハネの黙示録 (講談社学術文庫)

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二十歳前だったと思う。 

だから、ガキってほどガキじゃ

なかったはずなんだけど。

もちろん十分すぎるほどガキだった俺は、

嵐の夜に海沿いが

どうなってるのか見たくなった。 

 

雨雲の切れ間なのか、

さっきまでの風雨ではなくなり、

ただただ風。

とんでもない風が吹いているだけだった。 

 

さすがに危険な予感がしたので、

煙草を吸いながら空をしばらく眺めていた。 

すると月が少し見えたので、

こりゃいけるんじゃないかと、

ヘルメットを持って外に出た。 

 

 

夜の海岸線を見るために。 

 

 

家を出て、国道を走る。

風が強すぎる。 

橋を渡ろうとすると、

風に逆らうために車体を斜めにしないと、

オートバイは真っ直ぐ走れない。

突風で一車線は軽く飛ばされる。 

もちろん車もバイクも走っちゃいない。 

 

くそう、どうなってんだ!

こんな夜の海はどうなってんだ? 

ぞくぞくするぜ!

凄え事になってんだろう! 

 

海岸線の高台に出た俺は、

オートバイのエンジンを切った。 

そこには只の闇があった。 

 

図説 夜の中世史

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雲は再び厚くなり、

何も見えない夜の闇があるだけ。

見える世界はヘッドライトの灯りが照らす

狭い空間だけ。 

見えない闇の方から、

波の音だけが聞こえてくる。 

 

潮騒などとは呼べない、

もっと低い音だ。 

 

うねりの音。 

 

ゴーッ。 

 

何も見えない。 

当たり前だ。 

この地方都市の海沿いは、

ただの不便な田舎道なのだ。 

 

正気を取り戻した俺は帰ることにした。

 

九折の山越えをし、

小さな漁村を超え、短い直線に出た。 

道の左端は防波堤で、

右側はそのまま山だった。 

 

オートバイで走りながらでも

聞こえてくる海のうねり。

防波堤の向こうは海なのだ。

嵐の海。

 

また正気が吹っ飛んだ。

俺はゾクゾクしはじめた。 

とても危険な場面の直前にある、

あのピリピリしたものも確かに感じた。 

無意識のうちにギヤを一速落とし、

アクセルを開いた時、

そいつは音もなくやってきた。 

 

 

ハイビームで照らした空間が、

真っ白い光の世界に変わった。 

防波堤を超えた波が、

サーフィン映画で見たチューブのように

目の前で海水のトンネルを作っている。 

 

心臓が破裂しそうだ。 

怖い、怖いんだ。 

 

その波の中を

俺はオートバイで走っている。 

ハイビームで照らされた世界は、

全てが輝いて無音だ。 

早く出たい。

ここにいちゃいけない。

アクセルを大きく開ける。 

 

エンジンは唸っているはずなのに

音は聞こえない。 

出口に近づいているはずなのに、

出口はどんどん小さくなってゆく。 

 

ダメだ。 

 

光はその照度を強めながら、

俺に近づいてくる。 

出口が遠い。

息ができない。 

 

突然、弾けるような排気音が

俺の耳に響いた。 

 

息が楽になる。 

俺は抜けたのだ。 

世界はもう白くない。

真っ暗だ。 

 

俺がその出口から抜け出た瞬間、

すぐ後ろで大音量で波が砕けた。 

 

ゴーッ 

 

怖くて振り向けない。 

バックミラーに目をやると、

当たり前のように

そこには別の真っ暗な世界。 

 

ゴーッ 

 

音は、俺が海岸線から離れるまで、

止まることはなかった。 

恐怖から抜け出た世界は真っ暗で、

抜け出したかった世界は光のトンネル。

 

ちょっと待てよ。変な感じだ。 

 

 

どうしてあの時あんなことをしたんだろう。 

あの時、なぜあんな反応ができたのだろう。 

 

時折、そう、ほんの時折。

バカになって

そういう世界に偶然ふれることがある。 

そうだろ? 

オートバイって、そういうもんなんじゃないのかい? 

 

(いや、それ。。雨の楽しみ方じゃない気がするザンスよねえ。。でクリック!)

 

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