CHUFF!! チャフで行こうよ。

もう、何でもありです。ヒマつぶしにどうぞ。

CHUFF!!ってのは、「おっ、なんかいいよね!」って意味です。チャフっていきましょうよ!

剃刀で行こう!

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朝剃った髭が、どうにも気に入らず、

男は床屋で髭を剃らせた。

 

床屋の使う剃刀は、古臭い一枚刃の剃刀だった。

男は、床屋が磨くそれを横になりながら見つめていた。

 
主人は一枚刃の剃刀を、ベルトのような革で磨いた。

主は革の上で刃を前後させる。

シュッシュと、衣擦れのような音を男は聞いた。

 

古い椅子はよく手入れされていて、

革はつやを持ち、メッキは十分な輝きがある。

店内に装飾はなく、奥に関羽が祭ってある。

その小さな祭壇の下で、銀色の毛の猫が眠っている。

 

「上海」

男は小さくつぶやいた。

主は何も言わず、黙って泡を男の頬にのばし、

研ぎたての剃刀で、男の髭を剃り始めた。

男は目をつぶり、主人の剃刀が髭を剃ってゆく。

 

「狗不理」

そう言ったあと、男は寝息を立て始めた。

主は剃刀を動かすのを止め、男の顔を覗き込んだ。

深いため息をつきながら、主は二度首を横に振った。

一旦泡をきちんと拭き、男の喉元からタオルを外した。


主人は小さな通りに面した窓に近づき、外を見た。

結露が少し付いた窓からは、向かいの八百屋を見る。

八百屋の隣には閉めた時計屋があり、

シャッターが錆びている。人通りも多くない。


汽笛が三回聞こえた。

 

「万事如意」

 

主人は広東語で小さく呟いた。

窓からは見えない海に向かって敬礼し、

ついで鏡に写った自分を見つめた。

白衣の襟を直し、ネクタイノットを確認した。

髭は綺麗に剃り上げている。

眼鏡に曇りはなく、髪に乱れはない。


男は動かず、静かに息をしている。


主は、再び剃刀を研いだ。

 

主が剃刀を構えた時、男は目を覚ました。

 

「済んだか?」

 

男は自分で頬を撫でた。満足そうに頷き、主を見た。

「剃っても、どうせまた生えてくる」

「ですから、私どもの商売があるのでしょう」

「永遠に儲かる商売ってわけかい?」

「いえいえ、永遠などとは思いません」

「心配するな、その前に俺が消えてなくなる」

 

男は金を払い、釣りを受け取った。

ドアの前で深く息をし表に出て、

時計屋と八百屋の路地を抜けていった。

 

主は煙草に火をつけて、深く吸い込み、その路地を見た。

振り返って猫を見て、首を二回横に振った。

煙草を口に咥えたまま、シュッシュッと音を鳴らしてまた剃刀を研ぎ、

その刃先を覗き込んだ。

ぼんやりと浮かぶ自分の顔をしばらく見つめ、首を上げて路地を見た。

 

「一路平安」

 

主は一言いい、掃除を始めた。

猫はあくびをして、ゆっくりと体を伸ばした。

主は、洗面台の水滴を完全に拭き取った。

 

「そう、消えてなくなるさ」

猫は主の足元にやってきて、自分の首を主の足首にすりつけた。

 

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