CHUFF!! チャフで行こうよ。

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マダム・アパルトメント その2 フランスのお話

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♦その1はこちらから

 

マダムの好きな、安藤広重の話をしながら、

若い彼女は好奇心を抑えられません。

 


 

さっき使ったパウダールームだけでも、彼女の屋根裏部屋より広いのです。

この部屋に住むマダムは、なぜ杖をつきながら、コインランドリーに来るのでしょうか。

 

 

「マダム、なぜあなたはコインランドリーに来ているのですか?この部屋の素晴らしさや、ニャンもいるのに、なぜですか?」

「まあ、日本人はそういうことに興味があるの?そんなことまでニャンにばかりさせていると、私はこういう出会いを失ってしまうじゃないの?それにニャンも若くはないのよ。部屋の維持だけで、彼女も疲れてしまうわ」

「暇つぶしと、健康のためですか?」

「もっと切実な理由があるのよ」

「それはなんですか?」

「洗濯機をおく場所がないのよ。それに乾燥機もね」

「この部屋のバスルームより狭い部屋に私は住んでいます。私の部屋に比べたらそれくらいの空間はこの部屋にはありますよ」

 

老女は大声で笑い出し、しばらく自分のタバコの煙にむせていました。

 

「日本のユーモアを理解したつもりでも、まだまだ分からない事だらけね」と紅茶を飲んだ後、タバコを消しながら老女はいいました。

 

「あなたは勉強をしにきているのだから、部屋は、まあどうでもいいでしょう?私はここに住んでいて、そう遠くなく死ぬの。できればこの部屋で」

「私の語学力が足りないのか、いまいちよくわからないのですが」

「この部屋のどこに洗濯機を置いたら、似合うと思う?そんな場所は、私には見つけられないのよ」

「場所ですか?」

「そう、似合わないのよ。それは仕方ないのよ。狭いから」

 

彼女は大いに納得し、確かにここに洗濯機を置くくらいなら、みぞれの中をコインランドリーまで、洗濯物を抱えて歩く方が賢明な選択かもしれない、と思ったそうです。

 

「ときどき、ニャンが、私のジュエリーをくすねるの。きっと故郷の家族に送っているのね。私は気づいているけれど、そのままにしているわ。多分彼女もそれに気づいている。でもそれでいいのよ。必要なものでもないのだから、役に立つところにいけばいいのよ」

「本当にそれでいいのですか?」

「私もね、ときどき彼女が持っているお菓子を盗むの。気づかれてはいないと思うわ」

 

ニャンが、紅茶の入った新しいポットを持って、注ぎにきました。

 

老女は彼女にウィンクし、新しいタバコに火をつけました。

 

                 (おわり)