グレコ・レスポール・ジェフベックモデル。
深いブリッティシュグリーンの、そのギターに、
中学生だった俺の目は釘付けになった。
欲しい、欲しい、なんとしても欲しい。
確か、6万か7万円だったと思う。もちろんガキの俺にそんな金はない。
ならば、働くしかない。
ということで、知り合いの酒屋の配達の助手になった。
中学2年の夏休みである。
まだ、ガキとはいえ、配達先は主に夜の街。
きれいなネオンに輝く前の、昼の方が薄暗く感じる不思議な時間帯の街である。
それへの第一歩を、俺はギターのために踏み出した。
当時、酒屋の主は40過ぎ。
酒屋以外にも何件か酒場を所有しており、
子供の目から見てもやり手だった。
実際にかなり儲けてもいたと思う。
この主を通して、俺は日向とは違う世界を沢山見た。
なかなか奇麗な年増がやっている小料理屋に配達に行き、
俺だけ軽トラのなかで1時間ほど待たされたり。
愛想のよさそうなマスターに胸ぐらを掴まれたり、
主の愛人らしき女性の愚痴を聞いたり、
とまあなんとも面白い日々だった。
主が経営する酒場の一つに、当時パブと呼ばれた、
スナックをちょっと小粋にしたような、クラブと呼ぶには安っぽい店があった。
8月の暑い盛りだったと思う。
その店に主と配達に行き、
主は件の小料理屋に行くために、俺はその店内で1時間ほど時間をつぶすことになった。
エアコンの効いた店で座っていても金になるのだから、
俺に異論があるわけもない。
こういうことはたまにあり、
軽トラの中よりも快適なパブの中は、
俺にとって嬉しい場所だった。
それと、もう一つその店で過ごすことで嬉しいことがあった。
当時は随分と大人に見えたのだが、今から思えば22~3歳くらいの女性が、
昼間の間に開店準備をしていて、彼女を見ているのが好きだった。
カーリーヘアにきつい化粧をした細身の彼女は、おしゃべりではなかったが、
それとなく気をつかってくれているのがわかった。
もしかしたら、彼女も主の女の一人だったのかもしれない。
その日はレモネードを作ってくれた。
俺が一気に飲み干すと、嬉しそうに笑い、
「じゃあ、次はレモンスカッシュにしようか?」
といい、缶詰のチェリーを3つも入れてくれて、俺はなんだか嬉しくて、
でも話も上手くできなくて、なんとなくもじもじしていた。
「8マンちゃんはさ、洋楽とか聴く?ジュークボックスで何かかけてあげようか?」と彼女は言った。