神戸元町物語 ルックスの査定場 エヴィアン
まあ、有名な店であると思う。
しかし、ここのコーヒーは、まずい。
コレは冗談では無いのだ。
本当に不味いのだ。
しかし、この店にはここでしか味わえないものがある。
だからこそ、この店は続いているのだ。
もっと言えば、繁盛していると言っていい。
場所は、元町商店街の一筋北側。
大丸まで歩いて1分、元町駅までも2分、の立地である。
だからといって流行るわけでもなかろうに、私の知る限りずっと流行っている。
その理由は、私にもわかる。
ここ、居心地が良いのだ。最高に不味いコーヒーでも、居心地がいい。
なぜか、豆まで売っている。
買う人がいるのだろうか、と思うのだが、
どうも売れているのだと思う。
居心地の良さの理由を考えてみたのだが、
この店では音楽が流れていない。
客の話し声が、ザワザワと、波音のように気持ち良い。
コレは何かと考えたら、ガキがいないのである。
オトナたちがお喋りをしても、大声でがなってる人はいない。
煩くないレベルを維持できているのだ。
これはすごい。
でもどうやったら、こうなるんだ?
なんというか、都会の「街」の雑踏の匂いがするのである。
「あの女、メトロの匂いがする」の世界である。
何言ってるかお分かりにならない?
コレ観なさい。
人間なんでもね、無知でいいってことはないんです。
基本ですよ、「メトロの匂い」っていうのは!
それを構築しているのは、やはりここのママであろうな。
私が知る限り、ここのママほど、
強烈な無愛想さを持った客商売の人はいない。
椅子を足で蹴るし、言葉使いは汚いし、目つきは悪い。
そして、毎日ちがう眼鏡をかけている。
ママは、一体いくつのメガネを持ってるのだろう。
少なくとも私は、同じ眼鏡を見たことがない。
写真なんか撮ったら、とんでもないことになりそうだ。
よって、ママの写真はない。
ママのファッションは、ずっと変わっていない。
ずっとアメリカン・グラフィティの世界にいるのだ。
いったい、いくつなんだろう。
まあ、いい。
そして、ここのママは、モーレツに面食いなのである。
しかも、半端じゃない。
露骨に、明白に、「男前」と判断した途端、可愛い感じになる。
その変貌ぶりは、ちょっと面白いレベルである。
自分のルックスに自信のある、「自分大好き」な方々は、
セルフィーなんかやってず、エヴィアンに行けばいいのだ。
ママが強烈にジャッジしてくれる。
ちなみに、コレは女性でも体験できる。
ダサい子が嫌いなのであろう。
可愛い子にはやっぱり優しい。
そうやって鍛えられた客たちは、かなり躾が行き届いているわけだ。
ママに対しては、地元ではアンチも多いと聞く。
わたしの知り合いでも、
「あのママもどっかの山奥から来たお猿さんでしょ?」
とか
「あの面食いは、いやらしいから、好きになれん」
とか
いろいろ言う人がいる。
まあ、分からなくもない。
でも、私は好きなのだ、あのママさんを。
21世紀に入ってからも、ハート型のピンクフレームのメガネをかける、
そのガッツが好きなのだ。
あそこには、都会の「街」がある。
憧れた強さがある。
これは、東京でも味わった事がない。
ママさんもいい年だろう。
生きている内に行っといたほうが良いと思う。
別に不細工でも、不味いコーヒーはちゃんと出てくるし、
店員はみなよい躾がなされている。
人の穏やかなざわめきを聴くというのは、とてもよいものだ。
ついでに、ママさんのメガネも観察しよう。
トレンドなんて関係ない。
そこには本物のモードがあるような気がしてならない。
そう、「街」は常に戦いの場であることを、思いだそう!
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