青さんの住む長崎の西は海。
人はなくなると西方に行くと言われています。
西方浄土は、長崎では海の向こうです。
山岳地帯では、多分川下の方。
砂漠であれば、そのまま天、上の方。
ゆえに、長崎の御霊は海へ帰るわけです。
この話は、地理が人の感覚に対して
いかに影響あるかという、証左な気がします。
なんかね、読んでちょっと私も
涙腺がね。
静かな土曜の夕刻のお話しです。
ではさっそく。
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その日は土曜日。
焼いた手羽先を肴に、
ささを頂いておりました。
おっと、ちょっと雅が
でてしまいましたね。
あふれる教養は、止められないものです。
「ささ」とは日本酒の古語であります。
それをかっくらっておったのであります。
ふと見ると、何やら動いている。
土間から居間の方へ、
思わぬ珍客が現れました。
こちらでは「ガネ」といいますが、
いわゆるイソガニです。
知らない方は、
だいたいカブトムシ大
のカニだと思ってください。
それがね、ちょこちょこと、
あらわれました。
おそらく、排水口でしょうな。
ゴキブリなら瞬殺薬剤ですが、
ガネはね、海から来るでしょう。
誰かなんですよ、ガネ。
死んだ人が、姿を変えてやってきているのです。
爺さんか、婆さんか。
もっと上の誰かか。
様子を見に来たんだと思うんですよ、誰かが。
少なくとも、この地ではそう言われています。
居間の真ん中へ来ようとしたのなら、
それは拒絶していい。
ここは生きてゐる人間の
場所ですからね。
しかし、縁をウロウロしているだけなら、
気にしないのが作法です。
ウロウロしていたガネが、
ふと居間の真ん中へ進み出しました。
しばらく見ておりましたが、
部屋の真中付近で
行き場を見失っておられたようでしたので、
そっと掴んで玄関の外へエスコート。
お盆だけが、
ちょっと心配した関係者が来る時期
とは限らないんですね。
いつだって、気になったら
来るのだともいます。
ゴキもハチも無慈悲に
ぶち転がす私ですが、
ガネは待遇が違う。
迷信と言われてしまえば
それまでですが、
信心は人間の根っこですからね。
変なおじさんを教祖と崇めるよりは、
ずいぶん健全じゃないかな、とおもうのです。
思わぬ来客でしたが、
祖父母を思い出すきっかけに
なっただけでも、
十分尊い「ガネ」でありました。了
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ほう、「ガネ」というんですか。
なんか語源調べたら面白そうでありますね。
ふと、亡き人を思う。
これは、大事なことでありますな。
誰に大事かと考えれば、
残された人にとってであります。
亡くなった人は、
生きている人間の理とは
違う世界ですので
気にせずともいいわけです。
でもね、生きている人間は
そうはいかない。
ことあるごとに想いだし、
やがてそれも幻のように
薄くなるには時間がかかるものです。
今回訪ねてきてくれた「ガネ」
確かに、優しい
今は亡き人だったのかも
しれませんね。
（珍客にも貴賤あり。海から来ようと山から来ようと、遠慮なくクリック！）
