アーネスト・サトウを知ってるかい? その8 ヴェニスで眠りたい
さて、アーネスト・サトウの話も、
ずいぶん長くなってきました。
いい写真を簡単に撮りたい、
そんな人には、がっかりさせたかもしれませんね。
まあ、そんな話はよそで探してもらいましょう。
そろそろ、いったん終わりにします。
今回は、アーネストの妻である、
佐藤年さんのインタビューをまとめてみます。
同時に、アーネストの写真集から、
いくつか抜粋も。
例によって、文献はこちら。
この中で、キュレーターの福のり子さんが、
年さんに行ってるインタビューからです。
福のり子さんとは、当時イケイケのキュレーターで、
ニューヨーク近代美術館からキャリアを始めた、女傑です。
今は、大学の先生やってるみたいですね。
20世紀の終わりころ、
相当尖がっていた人です。
その福さんが、アーネストの妻である
佐藤年さんに、いろいろ聞いているのです。
見事なインタビューです。
興味のある方は、上の雑誌に載ってますので、
詳細はそちらがよいかと。
私が興味を持ったのは、
アーネストの、あらゆる人への、
対等な意識でした。
目上でも、目下でも、基本丁寧な敬語。
アーネストが病気になった時も、
彼は医者にこう言います。
「あなたは威張ってはいけない、我々は平等だ。あなたは僕の病気を治してくれて、僕は一生懸命あなたに協力して病気を治そうとします」
当たり前のこと言ってるようで、
これすごいこと言ってますよね。
実現できたら、実に素晴らしい。
いい治療関係が結べたでしょうね。
この平等意識は、
時にアーネストを窮地に追い込みます。
年さんはアーネストに
「日本で写真家として活動するなら、写真家協会に入り、
重鎮の大先生への挨拶まわりをしなさい」
と言うんですが、
アーネストは納得しないわけです。
「なんで、頭を下げなきゃいけないの?僕らは平等だろう?」
って感じで。
徹頭徹尾、モダニストなわけです。
これ、アメリカ流とも違うと思います。
前回書いた、モダニズムの
哀しさのような気もします。
彼が大学人になってからも、
そのモダニストとして、周囲と衝突します。
ある予算会議で、機械購入費が
予算10万だと言われたわけです。
アーネストは10年予算要らないから、
今年100万くれと言うんですね。
その理由は、オメガ(!)の、
引き延ばし器が100万だったからなんです。
オメガなら確実に10年はもつ。
そして、学生は
「世界にはこんな素晴らしいものがある」
と知ることができると。
もちろん、大紛糾です。
「学生には、安物でいいじゃないか」という人に、
アーネストは激怒します。
「僕は、自分の知っていること、すべてを教えたいんだ!その結果どうするかは学生自身の選択だ。でも、学生だから安物でいいってことは、絶対ないんだ!」
そんなアーネストですから、
周囲も心配するわけですね。
年さんも、俵屋の女将ですから、
世間の、そんなことよくわかるわけです。
結果、アーネストは冷遇された、
とも言えるでしょうね。
それでも、彼の授業は常に満員だったそうです。
年さんが、アーネストから学んだことは、
常に最高のものを見ること、だそうです。
最高のものを見ないと、下のものが分からない。
下だけ見ていたら、上は絶対に見えない。
これは視野の広さだと思うの。
これが彼に教えられた非常に大きなことです。
これ、本当にそうですね。
1999年の雑誌ですけど、
今の時代にも言えることだと思います。
アーネストは、多くの芸術家が眠る、
葬られたかったようです。
ここには、ストラヴィンスキーも眠っています。
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祖国を失った、多くの芸術家が眠る島。
しかし彼は、京都に眠っています。
ハーフとして戦前に生まれ、
戦後アメリカにわたり、
日本に「来日」した。アーネスト。
異邦人として苦悩しながら、
モダニストとして、
精神と肉体をボロボロにしていった、
アーネスト。
ずいぶん長いおしゃべりを
してしまいました。
ある時期の、この日本に、
彼のような芸術家がいたのです。
それが私にはとても嬉しく、
また哀しい話であると思います。
そのことを少しばかり、
お伝えできたのであれば、幸いです。
さて、またいつもの、
ふざけた記事を書こうと思います。
ありがとうございました。
(いやホント、この写真集は手に取って見ていただきたいですね。で、クリック!)
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