ロスアンゼルスにいたときの事。
あの街では車がないと、とんでもなく不便だ。
だから、まずレンタカーを借りた。
ガソリンの入れ方を習い、
慣れるしかないから、比較的安全な道を、
友人に横に乗ってもらって、走っていた。
意外に思われるかもしれないけれど、
ロスアンゼルスで、もっともおっかない場所はハリウッドだ。
特に夜は、ダウンタウンの比じゃない。
昼間だって、とんでもないのがいる。
その頃よくあったのは、交差点で子犬を抱いているジャンキー。
目が合うと、子犬を車に放り込んで、100ドル要求してくる。
断ると、その場で子犬の首をへし折ると、脅してくる。
まあ、なんともな時代だったと思う。
それに比べれば、ワインクラッシャーとかは、まあ可愛い。
そんな時代のことである。
俺が車で信号待ちしていると、中年のホームレスが、
俺の車の前に立ちはだかった。
スーパーのカートに、空き缶とかゴミを山盛りにした、
みるからに、ヤバそうな奴だった。
俺は窓を閉めて、ベルトを抜いてバックルを振り回せるようにした。
ホームレスは、よぼよぼ歩く老女をエスコートしていた。
老女は彼に気づいていない。
老女がわたり終えるまで、道を遮断していたのだ。
けっこう、広い道で
(まあ、ロスは裏通りまで広い道ではあるけれど)
全力で、老女をエスコートしていたのだ。
彼女が渡り終えると、彼は待っていた数台の車に頭を下げて
Hey guys ! Have a nice day ! You get it !
と言ったのだ。
そして、カートを押しながら、どこかへ消えていった。
俺は、なんだか猛烈に嬉しくなって、
友人に喋りまくった。
彼らの反応は、至ってクールだった。
「普通だよ、それ」
その言葉を聞くたびに、俺は猛烈に悲しくもなった。
アメリカと言う国が、素晴らしいとは思わない。
ただ、基本的に優しい人がとんでもなくいる。
もちろん、嫌な奴もとんでもなくいるけれど。
でも、俺はあの時、アメリカを尊敬したのは、事実なんだよ。
ヨーロッパとも、アジアとも、日本とも違う、
あの空気。
俺はベルトを締め直し、窓を開けて走り出した。
しばらくしたら、子犬を放り込まれそうにもなったけどね。
(多くの国で、いろんな人にお世話になっただろ?感謝を込めてクリックはどうよ?)

- 作者: 村田薫,James M. Vardaman Jr.
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