CHUFF!! チャフで行こうよ。

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深夜の犬鳴山 夏の夜の出来事

今週のお題「ちょっとコワい話」

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大阪と和歌山の境にある犬鳴山。

温泉あり、古刹あり、緑ゆたかに、いいところである。

 

昼間にいけばね。

 

 

ある夏、私は春からずっとベッドの上にいた。

バンの助手席に座っていた私は、とあるアホに盛大に正面衝突された。

私はフロントガラスから飛び出し、

数十メートル先のガードレールの下に頭を突っ込んでいたのだ。

 

しばらく寝たきりであった。

まあ、そうだろう。

 

しかし、運転していた友人は、更にとんでもない事になっていた。

これを詳しく書いても面白くないので、

単純に足ぐちゃぐちゃとだけ書いておく。

 

数ヶ月もすると、私はかなり動けるようになった。

運転手だった彼は、まだまだ治療の折り返し地点でしかなかった。

つまり、ほぼ歩けない。

松葉杖二つ使って、ちょっとは動ける程度。

 

ようするにヒマなわけだ。

そこで、彼が

 

「よー、夜にどっかドライブ行こうや。涼しいとこに!」

 

と言い出したのだ。

 

私もヒマだし、友人たちもヒマだったし、

友人Sの4ドアの車が乗り降りしやすいだろうとなり、

彼の車でドライブに出かけたのだ。

 

涼しいところを目指して。

 

しかし、若さというものは、あらゆることをアレンジする。

何も、気温でなくともよいのだ。

熱さがふっ飛ぶ、ゾッとする

冷たいものがあれが、

 

それは涼しさなのだ!

 

若さとは、クリエティブな魂の事だからね!

この場合、松葉杖の彼だけが、

そのクリエイティビティを持ってなかったけどね。

 

深夜のあの峠はひんやりしている。

旧道から、さらに分岐した道に入ると、

車の窓を閉めたくなるほどだったね。

 

いろんな冷気でね!

 

薄暗いトンネルまで来た私たちは、

しばらくその涼を楽しんだ。

 

そして、簡潔に言えば、

松葉杖の彼を、そこに置き去りにした。

 

涼んでもらうために。

 

運転手のSは、バックミラー見ながらゲラゲラ笑い、

ふりかえった私が見たものは、

煙草を口から落として、泣きそうな顔になっている、

お化けみたいな物体。

 

もう一人のT君は、ニヤニヤしながら

「あとでねえ〜」と窓から叫んでいる。

 

山のふもとまで降りて、缶ジュースとか飲んで、

「あー、これされたら、俺ならきれるわー」

とか、

「いやー、あたまおかしくなるで!ワハハハ」

とか、

好き勝手言いながら楽しんで、

彼のためにコーラを買った。

30分ほどしてまたトンネルに向かった。

 

人通りはおろか、対向車も全くない夜道。

少しだけ月明かり。

 

ヘッドライトをハイにして、フォグランプも光らせて、

トンネルの数百メートル手前のコーナーを、

Sが軽いドリフトで抜けたとき、

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こんな姿が。

 

急ブレーキ!!!!

 

もちろん、置き去りにされた彼である。

涙と汗でグシャグシャな顔を、ほっとさせた瞬間、

 

車は猛烈な勢いでバックし始めた。

Sは、

 

『なんや、あ、あ、あれ!』

 

とパニックです。

バックで走行してますから、Sは後ろを見ていますが、

私たちは前を見てます。

 

彼の顔には絶望と怒りと、恐怖と孤独が、

滝のように出ています。

それらが、眩しい光の中に浮かんで見えます。

松葉杖は周囲に無く、車が遠ざかる中、

異様な速度でそれを這いながら追おうとしている、

なんだかわからない光景が見えます。

 

コーナーを使って、Sはバックターンを決めます。

なんとも運転のうまい奴です。

そこから、全力で下りはじめました。

 

私は、彼に、ちょっと落ち着け!と叫び、

 

『あれ、あいつやで!』

 

「えっ、マジ?」

「マジよ、マジ!」

「地面這ってたあれやで?」

「そうそう!」

「ちびるかと思ったなぁ」

「迎えにいこうや。さすがに怒ると思うし」

「ちょっと待って、小便する」

 

Tは

「いやあ、なんとも寒いくらいキタな、あれ、ワハハハハ!」とか言ってるし。

戻ったSは

「全部、8マンのせいにするから、フォローヨロピク!」

とか言ってるし。

 

ゆっくりと車を走らせ、さっきの場所まで戻ると、

彼はもう仰向けに横になっていました。

 

10メートル手前で車を止め、私が降りました。

こういう役目は大抵私でしたしね。

こう、一発、笑いも取りつつ、

より涼やかな思いをさせなければいけません。

 

それに、話しをまとめないと、

目の前にはおっかない獣がいるわけですし。

 

 

「おい、そこの化け物!おとなしくするなら、つれて帰ってやる!騒ぐつもりなら、捨てて帰る!わかったか!?」

 

 

返事はない。

まあ、そうだろう。

怒っているのだろう。

私には次の手があった。

 

 

「わかったら、ごめんなさい、と言いたまえ!」

 

 

車の中で爆笑が起きて、ホーンが何度もならされる。

その大音量のこだまが消えた頃。。。

 

迷いが吹っ切れたのであろう。

彼は大きな声で

 

 

『ごめんなさーい!いみわかんねーけど、ごめんなさーい!』

 

 

と叫んでいた。

 

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ジャクソン・ブラウンが流れるような、爽やかな時間。。

大団円の余韻に、みな笑いながら涼を楽しんでいた。

彼をみんなで車に乗せ、冗談を言い合い、

まさに青春のワンシーンであったのだ。

 

(ケッ、これで終わらせるわけにはいかねえなぁ。。)

 

私は冷たいコーラを、さりげなく彼に渡した。

 

(もちろんその前に内緒で激しく振っておいた)

 

案の定、彼はコーラを車内で爆発させた。

Sが猛烈に怒り始め、俺たちは笑い始め。。

彼は何がなんだか分からないうちに泣き始め。。

 

松葉杖を回収し、彼を病院まで送っていった。

 

いやあ、ほんとうに肝の冷える涼やかさでしたよ。

 

携帯のない時代だからね。

今なら、スマホを取り上げといた方が、涼めますよ!

 

 

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