君と僕が初めて会った時の事を、
まだ覚えているかい?
もう、随分と昔の話しになってしまった。
でも、僕はちゃんと覚えているんだ。本当だよ。
あまりよくは思い出せないんだけどね。
ほら、そらが貪よりと曇っていて、
ここのところ雨が続いているからさ。
そんな時は、頭がすっきりしないだろ。
そのせいなんだよ。
忘れたわけじゃないんだ。
引き出しがいくつも頭の中にあってね。
それぞれに、間違わないように飾りをつけたんだ。
でも、引き出しが多すぎて、
飾りがなんの意味だったかわからなくなったんだ。
ここから見ると、きれいな模様にだって見えるんだ。
でも、どの引き出しかがわからないんだ。
その中には色んな記憶が入っていてね。
お天気や、風景や、匂いとか、たくさんさ。
こういう言葉を並べられるほどに、年を喰ったわけなんだ。
ずいぶんと長生きしていると思わないか?
さて、どの引き出しだろう?
間違えると大変だ。
いや、そうでもないな。
全ての引き出しは美しい。
中身も外も。
美しさについて、差はないものだよ。
だから、間違えないんだ。
記憶は遠いが、匂いは近い。
ジャスミンの花が咲く頃、決まって雨が降る。
その美しさは、金木犀と同じものだから。
こんな風に言っておくと、修羅場で大抵どうにかなりますよ。
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