CHUFF!! チャフで行こうよ。

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神戸元町物語 青柳

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数年前のある日、

鰻を喰う事になった。

私は鰻を好きではなかった。

嫌いと言うわけではないが、少なくとも好きではない。

土用の丑の日なら、まあ分からなくもないが。

突然、ふとそういう話しになった。

 

 

 

考えてみると、鰻とは間口の狭い世界である。

通というか、粋と言うか、そういうことを語る輩が腐るほどいる世界である。

寿司や蕎麦と同類である。

粋と言うのは東の文化であるものの、

折角だから粋に鰻を喰おうじゃないかとなり、

折角だから夏なので浴衣で出かけようとなり、

江戸好みの細身の下駄を履く事にした。


さて、浴衣をどうするか考えてみた。

私は浴衣を数枚持っており、全て竺仙という業者のものである。

緑の縞は夜には映えない。

ひさご柄も悪くはないが、多少派手な感じがして鰻屋にはあわない。

そこで買ったものの着た事がなかった波柄にしてみた。

藍に、薄い藍の点線で波と千鳥が全体に染め抜かれており、

裏も海老柄を使った両面染めである。

 

メリヤスのステテコ履いて、浴衣を羽織り、

カラムシの帯を締め、下駄を鳴らして街に出た。

出向いた先は元町の鰻屋、青柳。

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元々好きではないので、当然初めてである。

好きでもないものに金を使うほど酔狂ではないので、適当に入ったのだが、いやあ驚いた。

 

美味いね、鰻!

 

何ぶん初めてなもので、頼み方や作法も分からない。

そこで女将と話して「適当に」というと、

本当に適切なタイミングで適切なものが出て来た。

箸がすいすい進む。

酒がぐいぐい進む。

 

いやあ、素晴らしい。


別の客が、小さな声で私たちの浴衣を褒める声が聞こえる。

完璧ではないか!

 

いい気分とはこのことである。

なんなのだ、このいい感じは。

店には子連れの客もいたが、ちゃんと大人しく食している。

地元の旦那衆らしき老人達は談笑しながら

「うざく」と呼ばれる酢の物と冷酒を静かに楽しんでいる。


女将は威勢よく、

人々の落ち着いたざわめきと、

鰻の焼ける音と香り。

 

それなりの値段を払えば、

まだまだちゃんとした世界があるのだ、元町には。

 

鰻には関西風と江戸前では調理方法が異なるらしい。

関西は素焼きで軽く炙り、タレをかけて更に焼く。

なので比較的短時間で仕上がる。

江戸前は、焼く蒸す焼くを繰り返すので時間がかかるらしい。

ほうほう勉強になる。

 

今夜は関西風であったのだが、これは初めての体験だった。

考えてみれば、外で鰻を喰ったことがない。

最後に喰ったのはいつか思い出せない。

そして喰ったのは、どうも江戸前の安物であったと思われる。

 

まあ、スーパーで売っている安物に、江戸前も何もあったものではないだろうが。

 

関西風が喰えない地方の方々に、軽く説明してみるとすれば、

限りなく焼き魚に近い食感である。

 

ふわふわではなく、締まった感じと言えば伝わるだろうか。

タレは比較的濃いと思われるが、表面だけなのでスルスルと喉を通る。

デザートのメロンも喰い終わり、店を出る。

確実に今後馴染みになると思ったので、

見送りの女将に丁寧に挨拶し、路上に出る。


神戸の夜にしては、珍しく夜風が乾いており、

下駄を鳴らしながら腹ごなしと酔いを醒ますために歩いてみる。

からんころん、と桐の下駄は軽い音を出し、浜風が穏やかに吹き抜ける。

煙草を吸いながら、ふと思う。


あれ、これって完璧にオッサンじゃん?


今の年にして気づくのはどうかと思うが、

厄年の頃に物心ついた、と思っている私としては、

速やかとも言えるのかもしれない。

 

ガラスに映った浴衣を見て、今まで何故着なかったのか考えてみた。

思い出した。


「もうちょっと年喰ったら着ようかな」

 

と作ったとき思ったのだ!

予定調和で年喰ったようである。

まあ、それも悪くはないのかもしれない。

当然のことは、平然と受け入れよう。

 

もう、大人なんだから。

 

うん、こういう台詞は20年早く言わなきゃいけないのは知ってるんだが。

どうりで、今まで鰻を喰わなかったわけだ。

随分と損した気分ではあるが、仕方がない。

 

少し蒸せて来た。

こんな場合はどんな酒がいいだろう。

夏の夜には、ジンがいいような気がしてきた。

そこで、からんころんと次の店のドアを開けてみた。

その後、夜は一気に深くなった。

 

続きは、ご縁があったらまたの機会に。

 

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