CHUFF!! チャフで行こうよ。

もう、何でもありです。ヒマつぶしにどうぞ。

CHUFF!!ってのは、「おっ、なんかいいよね!」って意味です。チャフっていきましょうよ!

プライベートレーサーという生き方

私がオートバイ雑誌を夢中で読んでいた頃、中学生に入りたての頃だったと思います。

時代は、今や消え行く定めの2ストロークがサーキットを席巻しておりました。

ホンダは正式にはレースに参加しておらず、ヤマハ・ファクトリーが絶対的に優位な時代でありました。

その頃、富士スピードウェイを主たるコースとする、MCFAJという団体主催のレースがありました。

そこでプライベーターながら、常勝街道を突き進む男がおりました。

 

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彼の名は、浅見貞男。

 


既に消えさった名前であり、検索してもあまり情報は見つかりません。
しかし、彼の名は、今も私の中に燦然と輝くのであります。
プライベーターのため、市販レーサーマシンを自らチューニングし、毎回ファクトリーを下し続けた男であります。その口べたさと気難しさから、スポンサーのつかなかった男であります。

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確かあれは、ヤマハの純血レーサー「世界の金谷」と呼ばれた金谷秀雄の復帰レースでありました。

金谷は世界グランプリに足跡を残す、日本を代表するレーサーの一人であります。つまり、ヤマハは意地をかけて浅見を潰しにかかったのであります。

雨上がりの富士スピードウェイ、各レーサーはタイヤに悩みます。

空はまだ曇り、いつ雨が降り出すか分からない状態。
金谷は有り余るタイヤの中から、リヤにミシュランスリック、フロントにカットスリック。マシンは純血ファクトリーマシンのTZR750。
一方、浅見は当時最も安かったグッドイヤーのスリックしか持っていません。後は天に祈るのみ。マシンは市販レーサーのTZ750。当時の値段で250万前後。タクシードライバーで稼いだ年収を、全てつぎ込んだマシンであります。

レースは馬力で優勢な金谷リードでスタート。浅見との接戦が始まります。やがて路面が乾き始め、グリップで勝る浅見が中盤に金谷を抜きます。
しかし、それでもさすがに世界の金谷、すぐ後ろについて離れません。

そして魔の最終ラップ。無情の雨が降り始めます。
最終コーナーにさしかかった時、その差僅かに0.1秒。
逃げる浅見、追う金谷。両者ともに負けられない意地の張り合いであります。

そしてゴール。浅見のタイヤ4分の一差の勝利であります。
しかし、その瞬間に彼のマシンは火を噴きます。
雨が激しくなる中、金谷はウィニングランを走ります。
一方、勝者の浅見は第一コーナーの外れにマシンを横たえ、燃え盛る炎を見つめています。

金谷と異なり、彼にとっては1台しか無い、唯一のマシンが燃えております。
その傍らで、浅見は拳を握り、一人立っております。
その姿の凛々しさ、その姿の男らしさ。

雨と、炎と、チエッカーフラッグ。

その後彼は世界に出ます。
耐久レースでそれなりの活躍はしましたが、レーサーとして報われたとは言えません。

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しかも、彼の消息は、この時代にあってもインターネットにさえ出てきません。

彼の特徴のあるヘルメットと、わずかの白黒写真、程度のものです。

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サーキットとは縁もゆかりも無い片田舎で、雑誌を読みながら、当時私は涙しました。

遥か昔、そういう時代が確かにあった。
という話しであります。

 

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