靴好きな方であれば、
まず名前は知っているはず。
かといって、買うかとなれば、
なんとなくチャンスを逃している靴。
最近、女性が雨の日にコーデしているのを見かけます。
そもそもは、長靴代わりのブーツですから、
正しい使い方ですね。可愛いデザインですしね。
そんなビーン・ブーツにまつわる、
ちょっと不思議な思い出のお話しです。
そもそも、シラネーヨな方々はこちらへ。
もしくは、こちらへ。
今はバリエーションが増えてますね。
ボア付きとか、断熱素材入りとか。
私が、神戸の居留地にあるLLビーンのお店を、
ウロウロしていたときのことです。
中年のカップルが、ブーツを試着していました。
男性は靴に詳しいようで、女性はいろいろ教えられています。
ビーン・ブーツを中心に、あれやこれやと試しておりました。
その風景は、和やかなものでした。
ある男性の店員さんが、そのカップルの質問を受け、
見事なまでの知識を披露していました。
靴好きの私としても、その店員さんの話は、
とても聴きごたえのあるものでした。
男 お兄さんもこれ履いてます?
店 ええ、ここ一発の勝負時には!
女 ここ一発って、どんなときですか?
店 こう、あるじゃないですか、焚き火のそばでカッコよく決めたい時。
男 ああ、なるほど。そういうときですね。
女 確かに、そういうための靴ですもんね。
こう、話はテンポよく進みます。
スペックの話や、長所短所も、見事に話してくれます。
男 お兄さん、ありがとう。お兄さんの話す世界素敵だね。
女 私どうしようかな。おそろいがいいんだけど。
店 何足かハイテクブーツを履かれてから、その後でもいいと思いますよ。
いい年をした男女が、「おそろいがいい」と言っている風景は、
何か勘違いしているいやらしさはなく、
おだやかな、笑いに包まれた微笑ましいものでした。
女 じゃあ、私はおそろいを我慢して、今回はブーツに慣れることにするわ。
男 この際だから、俺は買っちゃおうかな。
店 こんな会話のある焚き火の風景とか、いいですよね。
女 ここ一発ですね!
男 そういう意味なのかなあ。。
どうやら、男性はそのブーツを買い、
女性は別のにしたようです。
私は、その時靴下を見ていたのですが、
二人も靴下のところで立ち止まって、
あれがいい、これがいい、と話し始めたのです。
どうも、女性がここでも「おそろい」を買いたかったようですが、
サイズが切れていて、悩んでいたのです。
他の買い物客も、なんとなく二人の会話を楽しんでいるようでした。
そこで、一人の年配の女性が、二人に声をかけました。
年 さっきから、お聞きしていたのですが、楽しそうですね。
男 あっ、これは失礼しました、うるさかったですね。
年 いえいえ、楽しそうな感じで、こちらまで楽しくさせていただきました。
女 いい年してお恥ずかしいです。
年 つい声がけしてしまいましたけれど、そちらの靴下はよいですよ。
女 そうなんですか?こういうの買ったことなくて。
年 もう、何年もその靴下を愛用しています。いいものですよ。
男 なるほど。では、お兄さん、これも一緒にいただきます。
店 ありがとうございます。
年 あの、私もそれいただくわ。なんだか、楽しい気分になっちゃったし。
男 あのう、今日は何かお探しだったんですか?
年 ちょっとしたクレームに来てたんですけど、なんか穏やかな気分になっちゃって。
女 なんだか、すみません。
年 いえいえ。怒って帰るより、買い物して楽しい気分で帰るほうがいいじゃありませんか。
女 全くです。私も嬉しいです。
そんな会話が繰り返され、
気づけば私も含め、店員さんもみんな笑顔になっていました。
クレームに対応していた、別の店員さんも、他の買い物客も、
なんとなく、みんな気分が穏やかな気分の「おそろい」になっている、
極自然な風景が、そこにはありました。
私も、聞いていて幸せな気分になり、
年配の女性の言葉を信じてみようか、と思いました。
そこで、その靴下を買ったのです。
男女は店員に挨拶をし、年配の婦人にも会釈し、
日が暮れかけた冬の街に消えていきました。
家に帰り、その靴下を履いてみました。
その方の言われたように、とても気持ち良いもので、
あの御婦人は、本当のことを言ったのだとわかりました。
その時に私を包んでいた、不思議な感覚は、
偶然であったあの二人の風景から、
ずっと伝わっているのだなあ、と思いました。
それは、とてもおだやかな暖かいもので、
あの場にいた全員が、
それを感じていたのだろうと思います。
ああいうのを、素直さというのでしょうし、
それを、幸せというのかもしれません。
その靴下と、自分のビーン・ブーツを見るたびに、
あの風景が浮かぶのです。
誰かが、誰かに、丁寧に礼儀正しく、
そして穏やかに話しかける。
ただ、それだけの風景が、
こんなにも長い時間、
私を暖かい気持ちで満たしてくれることに、
驚きを感じます。
もしそれが、人間というものの、
一つの真実の形なら、
世界が美しくなることは、
実はそんなに難しくないのかもしれません。
最近もクリスマスのプレゼントは、
靴下に入ってるんでしょうか?
あの時の、誰かから貰ったプレゼントは、
靴下に入っていました。
丁度、今頃の時期だったと思います。
クリスマスの少し前の。
(などと、思いにふける私の足元は、今日はレッドウイングのブーツだけれど。さあ、優しさでクリック!)