ロンソンのシガレットケース

仕事の関係で久しぶりに大阪に出向きました。 

鰻谷や周防町を歩くなんて、

本当に久しぶりだったので、

仕事の後で少しブラブラしてみました。 

街は変わっていたけれど、

大阪は大阪以外であるはずもなく、

案外いい街だった。

 

夕方、もう寒いと言ってもいい気温なのに、

カクテルドレスを着たホステスさんが、

酔っぱらって泣きながら、

男にすがりついているのを見たりとか。

道から丸見えだったり。 
ああ、大阪だなあって思う風景。 

そんな中で偶然見つけた、

アンティーク雑貨の店。 
入ってみると、アメカジの古着や、

ライターが豊富にあったので、

いくつか見せてもらいました。 
私は煙草を吸うからというだけではなくて、

ライターというものが好きなのです。

大抵は煙草に火をつけるためだけに作られた、

なんというか無駄な産物であるとこに、

惹かれるのであります。

 

百円ライターでも十分なのに、

わざわざ手入れしながら、

古いライターをよく使うのです。 

そこで見つけたのがこれ。 

写真で分かる人は、かなりマニアかな。 
これはロンソンというメーカーの、

ライター付きシガレットケース。

 
開くとこうなります。 

丁度、ショートホープが入る長さですね。

無理すれば10本入るけれど、

すぐに一本吸って９本にするのが正解。

 

まあ、こういうところ、

シャレなんだろうけれどいいよね。

狙った感じがする。 

ケース上部にオイルライターが装填されていて、

火をつけるとこうなります。 

店の気の弱そうな主に、

着火テストをさせたら火がつかず、

現状で値引き交渉。

 

実は、なぜつかないのか、

ロンソンによくあるエラーで、

私は知っていたんですけれど。

向こうはプロ。

こっちはアマチュア。

知識がないのは向こうのせいとばかりに、

思いっきり値切ったら、

あっさり交渉成立。

やはり知識は力であるなあ。

 

それもふくめて、カモられた可能性あるけれど。 

 

自宅に戻り、

簡単な修理でロンソンはあっけなく着火した。 

話は変わるけれど、

ちょっと前に学生時代の友人と食事したんですが、

その中の一人が数年前から煙草を止めていたんです。

俺ともう一人が吸っているのを見て、 

「別に吸いたいとは思わないんだけどさ、

煙草に火をつける仕草って優雅に見えるよな」

と言っていたんです。

やはり、優雅なんてものは、

無駄なものでしか、あり得ないとも思うんですよ。

ロンソンを手に持ちながら、

ちょっとした重みと、

亜鉛メッキの鈍い光を眺めつつ、

このケースが手元にくるまでの、

歴史を空想してみたわけです。 

いずれ、また私から離れてゆくだろう、このケースは、

私が大切に使う限りにいて、

次の誰かに渡ってゆく可能性があるわけです。 
美しいものはそうあるべきだと、私は思うんです。 

とはいうものの、

あの店は好き者からしたらカモである。 
カモなら、ネギをしょわせてやって、

食っちまうのが大阪であるから、

今度また行ってみよう。 
仕方ないよね、

そういうとこ含めて大阪なんだから。

 

まあ、私がカモなのかもしれないけれど。 

嫌いじゃないね。 
生き馬の目を抜くような騙し合い。 
向こうもガラクタを売りつけてやった、

と喜んでいるはず。 
そう、そしてみんなハッピーになって、

私はこれからもう一本煙草を吸うわけだ。 

世界中のどこだでだって、

煙草の火を貸してくれと言って断られたことはない。 
人類最後の完全無欠の優しきヒール。

ベビーフェースのふりなんか絶対しない、悪徳の印。 

 

でも、全ては煙で終わっちゃうんだけどね。 
そういうの好きだな。

 

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