湿度が高くなり、空気が纏わりつき始めると、
学生時代によく飲んだカフェモカ・ミントを思いだす。
その地を離れても、
数年は飲みに出かけていたのだが、
もう訪れることはなくなってしまった。
その店の主は沖縄出身で、兎に角よく働く人だった。
奥さんと、甥っ子との3人で、24時間店を開けていた。
珈琲専門店で、しかも学生街に、それだけ開けていても、
大抵は一番安い珈琲で何時間も粘られるのだから、
それほど儲けも無かったように思う。
ジャズとクラシックの、なかなかのコレクションがあり、
アンプやスピーカーも一流だった。
その代わり、椅子はガタガタで、
あちこちに綻びがあり、階段を歩くとミシミシと音がなった。
その店の主に、ドリップの作法、
豆の見分け方、多くの事を教わった。
丁度今ごろの季節。
たまたま俺は一人で店に入った。
珍しく客はおらず、
主が一人で店番をしており、三線を弾いていた。
外はしとしとと雨が降り、風は生暖かかったが、
主はエアコンを入れずドアを開け放して風を通していた。
少し値段が張るので、いつもは頼めないが、
その時に俺はカフェモカ・ミントを注文した。
出来上がったそれを飲み、再び主に視線を戻すと、
先ほどとおなじように背筋を伸ばし、
三線を抱えて外を見ていた。
そして、俺にはわからない琉球の言葉で歌いだした。
静かでオンボロな喫茶店。
モカの浅炒りをアイスにして、
チョコパウダーを少々。
自家製バニラアイスを乗せて、
ミントリキュールを一垂らし。
ミントの葉っぱを一枚のせて、
それか噛みながら飲むアイス。
窓には水滴、
耳には三線、
響くは見知らぬ南国の歌。
まっすぐ上がる煙草の煙。
なんだか分からないけれど。
滅多に無い事だから、驚いた。
少し泣いていたのかもしれない。
まだやってるかなあ。
飲みたくなった。
(青春の思い出の店には、WIFI必須らしいですね。時代も変わるんです、そこでクリック)