CHUFF!! チャフで行こうよ。

もう、何でもありです。ヒマつぶしにどうぞ。

CHUFF!!ってのは、「おっ、なんかいいよね!」って意味です。チャフっていきましょうよ!

神戸元町物語 旦那衆の社交場だった「ざる八」

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いま、この店はもうない。

閉まって二年になると思う。

店舗そのものは残っているが、ポストも封印されている。

 

 

老いた姉弟らしき家族経営のお店だった。

最初、入った時には、普通にざるそばを注文したのだけれど、

他の客は、不思議な呪文のような言葉で注文していた。

 

「ザルショウタマゴ」

 

これを、皆が皆言うのだ。

 

出てくるのは、小さな器に入った白米とお漬物、不細工な卵焼きとざる蕎麦。

 

「ザル、ご飯小、卵焼き」というわけだ。

 

次に行った時、私も言ってみた。

「ザルショウタマゴ」

 

卵焼きは、そば湯で溶かれていてほんのり甘く、

ご飯を食べながらお漬物をかじると、手漬けと思われる塩加減で、

口の中がなんとなく幸せになる。

それを食べきってから、お蕎麦を食べる。

少し甘目のつゆが、全体を優しく包む。

 

最後に、そば湯で汁を割って少し飲み、お勘定というわけ。

 

この近所に住む、旦那衆と呼ばれる自営業者の初老の男たち。

彼らは、それをすっと行って、長居をしない。

その短い間に、相場の動きや、情報を交換していた。

わたしも、たまたま耳にした事で、何度かその恩恵を受けた。

 

そばは、生そばで、十割だった

喉にも絡まず、そのまま喉の奥に消えてゆく。

確か値段は、600円ほど。

 

私も十年くらいは、それを楽しんだ。

 

しかし、この店はもうないのだ。

いつか行こう、ではダメなのだ。

全ては儚い。

いつか、など存在しないのだ。

 

ある日、そばを食べに行って、廃業しましたとの張り紙を読んだ時、

自分の甘さに気づいた。

 

常に、次はないのだ。

あれは、もう食べられないのだ。

6歳の時の記憶ががよみがえる。

chuff.hatenablog.com

 

常に次はない。

次はないものと思え。

わたしの明日だって、実はないのかもしれない。

ずっと、ラストラップを走っているわけだ。

 

いまだ、そのままの店の看板と構えを見るたびに、

わたしはそう思う。

 

人の全ては、有限なのだ。

 

(人生、毎日がラストラップ!後悔した時には遅いので、今ここでクリック)

 

 

小笠原流 美しい大人のふるまい

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