CHUFF!! チャフで行こうよ。

もう、何でもありです。ヒマつぶしにどうぞ。少しもの知りになれるかもです。

CHUFF!!ってのは、「おっ、なんかいいよね!」って意味です。チャフっていきましょうよ!

ヤマハのナナハン

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もう時効だから書いても構わないと考えたんだ。


と言っても、この「時効」法律的な意味ではなくてさ。

そもそも、そんなものに興味はないしね。


関係者達の想いも、

今となってはすでに懐かしむ領域に入っているだろう、

と俺が思うからなんだ。

 

 

つまりはそういう意味での時効。

当時俺は貧乏学生で、それでもドリップの珈琲と、

オートバイだけは手放さずにいる生活だったな。

 
時はバブルの真っ最中だというのに、

木造のエアコンもテレビも無いアパートに住んでいたんだ。

その前は4畳半に台所と汲取の便所しかない、

小屋の様な場所に住んでいた。

 


一方で、なにかの仕事をして、まとまった多少のお金が入れば、

ミナミでオケラになるまで飲み歩き、朝まで遊んで

バイク屋のツケを次々と踏み倒していて、

そんなこと気にもかけなかった。

 

まあ、ひどいクズだったわけだ。

 

丁度この季節で、老婆がナンパ橋の深夜に花を売っていたりしたな。

酔っぱらった俺はバラを全て買い、一緒にいた女の子にあげたんだ。

それで、彼女と急速に親しくなってさ。

 

俺は、半ば彼女のヒモのような生活を、しばらくすることになったわけさ。

彼女は、いわゆる良家のお嬢さんで、

勝ち気だったが、基本的にはとても可愛い女の子だったわけなんだ。

俺より背が10センチくらい高かくて、

彼女はその長身を恥ずかしがって、いつも猫背で歩いていた。

 

ある日、まとまった金が手に入った俺は、

彼女を服屋に連れてゆき、ハイヒールとスーツを買い与え、

「その辺のチビや俺を見下ろしながら歩け。その方がお前は奇麗だ」と言ったんだ。


実際、ストライプのスーツに8センチ程のヒールを履いて、

背筋を伸ばして歩く彼女はとても奇麗だった。

俺より首一つ出ている彼女を連れて、

あちこち遊びによく行ったが、

長身でグラマラスな身体が、スーツによく似合っていていた。

 

もちろん俺たちは、しばらくは甘い時間を過ごした。

夏のある日、彼女からベッドの上で頼まれ事を聞かされた。

彼女の姉には不倫相手がおり、その人はオートバイに乗っていた。

妻とは離婚調停中で、別居しているらしかった。

彼女の姉を乗せツーリングに行くため、十年ぶりに新車を買ったという。

しかし彼は心臓疾患でその前に突然死んでしまった。

今なら、過労死と言われるかもしれないな。

 

オッサンが、若い娘と、再度青春しようと頑張って、

あっさり死んじまったってわけだ。

 

彼の妻は、すぐにでも売って清算したいらしい。

その情報は入っていた。

しかし姉さんは、いつか自分が乗りたいと願ったわけだ。

だが免許が無い。なにせナナハンだ。

そこで安心できるライダーに、面倒を見てもらえないかとね。

そして妹の男である俺に、その役を引き受けてくれないかという話しだったんだ。


維持費車検代、その他全て姉さんもちである。

マシンはヤマハの750。

当時の俺は、まだ中型の免許しか無く、

大型の免許を取っても、バイクを買うような金はどこにもなかった。

その話しを聞いた時、俺は気が重かった。

 

今は姉さんもその気だろう。でもいずれ新しい人生を始める。

その時、このバイクは途方無く重い存在になり、

邪魔なものなってしまう、それは間違いない。

 

姉さんから直接頼み込まれ、俺は未亡人と偶然を装って出会い、

未亡人に同情する振りをして、言葉巧みにそのバイクを相場以下で購入した。

若い男が、オバサンを手玉に取るのは、案外簡単なものだ。

通常は、そこでお金を引っ張るのだが、

ここでは払うのだから、もっと簡単だ。

 

引き取りの日、少し離れた場所で姉さんを待たせ、

俺は無免許のまま公道に走り出た。

 

違反で捕まれば一発でアウトだったが、

それはあまり気にしていなかった。


姉さんを乗せ、大阪の街中を走り、万博の外周に入った。

軽い夕立があり、大きな虹がかかっていた。

何周も走って、何度もそれを見た。

 

虹が消えて、姉さんを自宅に送って行った。

 

そして俺の手元に750がやってきた。

勝手なもので、そうなればなったで気の重さなど全く無くなっていたな。

でかいマシンを操る楽しさに夢中になってしまった。

無免許のまま乗り回し、ついでに免許もちゃんと取った。


姉さんはまずは中型免許を取り、

250のバイクを買ったけれど、そこまでだった。

 

良家の子女には、良家ゆえの、それなりの事情があるんだろう。


しばらくして、姉さんはお見合いで結婚することになった。

当然バイクも手放した。

時を同じくして、ナナハンを是非譲ってほしいと言う人が現れた。

そのことを話すと、「大事にしてね、とだけ伝えてね」と言って、

売った金も俺に貰ってくれと言う。

さすがの俺もそれは出来ないと言うと、

「じゃあ、あのオートバイの奇麗な写真を一枚撮って頂戴。

それのギャラでいいわ。でも本当に奇麗な写真でないと嫌なの」

と言われ、それで俺も納得した。

 

何枚も何枚も写真を撮り、色温度の低い街灯にマシン照らさせ、

広角レンズを使ってフロントタイヤの下から、

オレンジに光る長いフォークを強調する構図を取り、

夜空には三日月が浮かんでいる写真を選んだ。

 

 

結婚式の朝、花束と写真を贈った。

姉さんは妹に、泣きながら何度も俺への礼を言っていたらしい。

同じ日に、俺はそのマシンを新しいオーナーに渡した。

姉さんは、旦那の転勤ですぐにロンドンへ旅立った。

 

数週間後手紙と写真が届いた。

写真の中では、きれいな部屋の中に、

まるで大事な絵画のようにあの写真が飾られていた。

手紙には

「夫には『大事な写真なの』とだけ言ってあります。彼は優しい人なので、それ以上は訊かれませんでした。大事にします」

とあった。

 

しばらくして、妹の方とはいろいろあって別れた。

例のマシンは一ヶ月もたたないうちに、

事故で廃車になったと知人から聞いた。

今やあの写真も押し入れの奥で埃を被っているだろう。

姉さんはもう60歳に近い年齢のはずだ。

 

手元に残った写真の中の1枚に、そのマシンを手放す日の写真がある。

まだ20代前半の俺が革ジャンにロングブーツ姿で、

磨き上げたヤマハの750と得意満面の笑顔で写っている。

今と変わらずタバコを口にくわえ、

その年代特有の不敵な面構えで笑っている。

 

きれいな終わり方だったと、今でも思う。


ただ、あの写真は残っていると思う。


きっと、何年かに一度、姉さんは一人で、

こっそり見ているんじゃないかな。

 

そうだろ?

オートバイって、そんなものだろう?

 

(そんなお姉さんも還暦近く。人間に歴史あり、ゆえにクリック!) 

 

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