ユニオンジャックを掲げない島。
レースで死んだ全てのライダーは、
その名前を彫られたベンチが作られ、墓標として魂はそこに眠る。
その名は、マン島。
世界で最も過酷なレースを見に行った、旅人。
ここでは焚き火の男で知られる、彼のレポートが始まります。
どんな旅だったのでしょう。
物語は、旅立つ前の話から始まります。
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初体験というものは
何事も初めてというものは、
期待と不安がとてつもない質量で、
自分の中に渦巻くものだ。
なんせ初めてなのだから。
ドキドキ、ワクワクという言葉で常に表現されるが、
その理由は大抵の場合、期待の方が比率として大きいからだ。
唯一の例外は死というものだ。
これには不安以外の要素は、
ほとんど無いと言っていい。
なぜかって？
そりゃそれがどうであったか、
どんな感じであったか誰も語る事ができないからさ。
初めての体験とは言っても、
そのほとんどは、自分以外の体験者の情報によって、
ある程度想像することができる。
それに備えて予習したりもできる。
凶事に対しては予防線を張れるし、
楽しいであろうことに対しては・・・
ドキドキ、ワクワクなのである。
そしてオレはドキドキ、ワクワクしている。
日本国内を隅々まで放浪したオレが、
初めてその枠を飛び出す。
初海外である。
パスポート、国際免許、外貨の換金、飛行機、
何もかもが人生初。
成り行きなんかではない。
考えた末の一大決心。
ゆえにあれこれ想像を巡らせ色々と計画は立てている。
こんな感覚は本当に久しぶりだ。
そう、初めて好きな女の子と、
お泊りデートの約束を取り付けた時のような。
ミスは許されない感覚。
仮にあったとしても被害を最小限にとどめて、
滞りなく事を進めやることをきっちりとやる。
結局、何もできなかったと、
後でウジウジするような愚は犯してはならない。
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話を聞いていて、こっちがドキドキしましたよ。
なにせ、あのマン島ですからね。
ホンダが、アグスタが、ドカッティが、
トライアンフが、マンクスが、ですからね。
さあ、この一人ロマンチックな男の旅。
みなさん、お楽しみに！
この男、既に帰国していますが、
家に帰って草刈りと焚き火に忙しくなるので、
しばし間が空くとは思いますが、
こういうのも気分ですからねえ、どうなんでしょう。
（つづく）
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