なんとなく思い出したんだよね。
あの日からしばらくは、関西にいる僕も、てんやわんやの日々だった。
当然、現地の人たちはとんでもないことになっていたはずだ。
被災地とはいっても、少し離れた場所に友人一家が住んでいた。
ひどく被害を受けた土地ではなかった。
しばらくたって、そのの友人に連絡した。
直後は電話どころじゃないだろう、と遠慮していたんだ。
電話に出た彼は
「暗い話題ばかりらしいので、バカ話ができる電話は嬉しいよ」
と言ってくれた。
彼らはクリスチャンなので、
「こういう時って、祈るもんじゃないの?」と言ったら、
「そりゃあ無力よ、それは。祈ってるヒマないんだよね」
と笑っていた。
少しだけ話しをして、電話を切る時、
彼は「おやすみなさい」と言った。
時計をみたらまだ6時半だった。
彼らはもう眠るのだ。
明日も日の出とともに、多くのことをこなすのだ。
電気も何もなければ、春の6時半は眠る時間なのだ。
ボクは「ああ、おやすみ」と言った。
その後、自分が震えていることに気づいた。
暗闇で夜を越す、彼と彼の家族を思った。
それが、被害の少ないと言われる地域の、その時の生活だった。
できるなら、ゆっくり眠ってくれ。
ただただ君に、おやすみなさい。
そう思いながら、僕は少しだけ何かに祈った。
なにに祈ったのかは分からない。
ただ祈った。
梅雨なのに、晴れて乾いた空気の中で、
なぜだかわからないけれど、思い出したことでした。